
ル・マンの鮮やかな瞬間
父の代からポルシェの販売代理店となり、物心ついた頃からポルシェが身近にありました。
それは幸せなことでしたが、「ポルシェとの出会い」に関しては、特別な記憶がありません。
しかし私には、ポルシェに惚れ込んだ鮮やかな瞬間があります。
私は小学生の時から父やお客様から、ル・マン24時間レースの話を何度も聞いて育ちました。
それから月日は流れ、ポルシェの営業マンとして働き始めた1994年。
どうしてもこの目でレースを見たくなり、リュックを担いでフランスへと旅立ちました。
初めて体感するル・マンのサーキットは、人々の熱気と迫力が想像をはるか上でした。
すぐさまその魅力に取り込まれた一方で、レースに目を移すと、GT2クラス(市販車ベースクラス)ではポルシェの911RSR(以降:RSR)がほかの流麗なマシンと比べてずんぐりむっくりに見え、またスピードもいまいちの印象でした。
「なんか垢抜けないな。」
そんな感想を抱きながら、寝袋にくるまって眠りにつきました。
翌日、6時半ごろに目が覚めてサーキットに向かいました。
朝の空気を裂いて走るマシンは、夜のうちに半分以下に減っていました。
その時、私はあることに気づいて唖然としました。
あの流麗なマシンは夜の間にリタイアし、生き残ったマシンもペースを落とす中、
あのずんぐりしたRSRだけは、昨日と変わらぬペースで走行していたのです。
あれもRSR、次もRSR、その次も…。
ペースが落ちたマシンをぶち抜きながら、時計の針のように精密にラップを刻むRSRの姿を見て、気がつくと「いけいけー!」と涙を流しながら叫んでいる自分がいました。
この年、RSRはGT2クラス1.2.3フィニッシュを飾りました。
市販車とほぼ変わらないのに、この信頼性・耐久性・快適性、そして強さ・速さ。
これが世界一のスポーツカーの真髄。
「俺は世界一のスポーツカーを売っている幸せものなんだ!」と感動しました。
信頼の証・ポルシェ356
当社のガレージには、販売から半世紀以上を経たポルシェ356があります。
スポーツカーなのに4人乗りという快適性は、当時の常識では考えられなかったそうです。
356は今でも現役で、私が時々通勤に使っているだけでなく、レースにも出場しています。
昨年も、鈴鹿のサーキットを全力で30分間走り抜けました。
それでもケロッとしている356に、恐れ入るばかりです。
初めてのル・マンで私が感動したポルシェの信頼性・耐久性・快適性。
それを証明するのが、この356です。
ポルシェに乗ることは、世界一の信頼を手に入れることだと思います。